1999年の為替動向

98年第4四半期での情勢判断

1. 99年のドル・円・欧州通貨を巡るポイント

2. 新興国市場についての見方

3. 円安トレンドは終了したか

4. 信用収縮・資本停滞・リスク回避による円高のメカニズム

5. 足元の円高110円は行き過ぎ

6. 強いユーロか弱いユーロか

7. アジア通貨の動向

8. 韓国ウォン・タイバーツの強さは本物か

  1. 人民元と香港ドルの動向

参考

http://www.btm.co.jp/mkdata_j/mar_144.htm

東京三菱銀行 マーケットスコープ

前週の為替相場

98年第4四半期での情勢判断は下記に要約される。

情勢判断

98年後半の円安の背景は「信認の危機」と「ファンダメンタルズ悪化」

政策対応の遅れや結果が出ないことで不信感が増幅された。

市場が焦れて日本に対する「催促相場」の様相を呈した。

市場の圧力による改革推進で円安はクライマックスを迎えた。

 

結論

@ 日本の財政政策は超拡大に転換し政策面からの円安要因は解消

A 金融システム不安解消も大詰め、いよいよ円の信認は回復へ

B 円の信認回復・リスクプレミアムの縮小でドル高は修正された

C 積み上がった投機的ポジションの巻き戻しが円高の原動力

D ファンダメンタルズ面では米国の景気減速が想定される

E 米国の金融政策は引き締めから緩和へと変化する可能性大

F 米株は大幅調整の瀬戸際、ドルヘの悪影響は大きい

G 欧州景気は拡大傾向、EMU期待などで欧州への投資人気は続く

H アジア通貨のデフォルトリスクは解消、最悪期は脱する

I 経済状況は悪化、だが日本のバブル崩壊時の経験から円安にはならず

 

評価

掲げた材料はほぼ現実のものとなった

現実には想定以上の円高が進捗、一時は111円台をつける

ヘッジファンド・米銀の危機拡大による世界的な信用収縮発生

マルク高の限界を予想したが70円割れは予想外

 

 

1 98年、99年のドル・円・欧州通貨を巡るポイント

98年ドル高修正:世界的な信用収縮

<米国>

  景気動向に外需要因(アジア中心)による打撃、生産活動は鈍化。

新興国市場危機の影響拡大による金融市場の混乱、信用収縮の発生。

  実体経済面の減速基調に金融面の不安が加わり景気の先行き懸念増大。

  金融政策は引き締めバイアスから利下げへ急展開、株式相場は調整局面

米債の利回りは低下、ドル資産人気にかげり。

ドルに対する信認が急低下、ポジション整理のドル売り殺到でドル急落

<欧州>

98年5月のEU首脳会議でユーロは実質的にスタート

  景気拡大は設備投資を軸に内需主導型へ転換、雇用悪化も底打ち

金融政策はEMU開始に向けた金利収縮最優先、独仏は利下げは見送り

  財政政策は緊縮の呪縛から開放され、中立スタンスで景気下支え効果

  資本動向:不透明感解消、景気堅調でユーロ建の資産への配分が増加

<日本>

景気は内需不振で悪化の一途、底が見えず、設備投資・消費が不振

  株価はバブル崩壊後の最安値を更新

  金融政策は更なる緩和へ、金融市場での不測の事態発生に臨戦体制

  金融システム不安は金融関連法案の成立でようやく山を越しつつある

  財政政策は超緊縮から超拡大へと方向転換も景気底割れ阻止に止まる

  投資家はドルから欧州通貨へ軸足を移したが秋からは外貨投資に慎重

99年 前半はドル復調もその後息切れ

<米国>

  金融危機はFRBによる早期の対応によって回避される可能性が大きい

ドル資産に対する信認は極度の悪化状態から回復する可能性も

  景気は予想通り減速するがソフトランディング・年後半に消費にかげり

  経常赤字は縮小傾向へ向かうが、当面は対日強硬派から円高圧力増大

中南米諸国通貨不安定がドル安懸念材料

<欧州>

ユーロがスタート、期待感は−段と高まるがブームはいずれ一服

景気減速は米国より遅れ99年に顕在化

ただし海外の影響は低い 金融市場の混乱は今のところみられず、あっても米国より軽微

  金融政策は緩和に向かうが動きは緩慢

  財政政策は左派勢力拡大で中立から拡大へと向かう可能性もある

<日本>

  景気は相次ぐ景気対策・金融不安解消でようやく底打ち、ただし浮上せず

  構造調整圧力に加え、円高ならデフレインパクト、米国景気減速の影響も

  金融政策は緩和基調を継続、海外への資本流出は続く

  年末にかけて対策の効果が漸く顕在化、円資産の妙味が増加して円高へ

結論

年初から春頃まではドルしっかりで120円台半ばも、その後息切れドル軟化

来年末にかけて再び110円台の円高に戻す可能性が大

ユーロブームは99年には終息、ドルとの力関係は景気・金利動向次第

ユーロは対円で堅調推移も対マルクでみて70円台半ばで頭打ち反落

 

2 新興国市場についての見方

アジア

  国際金融上の危機は回避された、金融面での今後の悪影響は少ない

  一方、景気の減速・後退が先進国経済に与えた実体経済面での影響は大きい

  依然としてじわじわ効いており今後も悪影響は続く

 

ロシア

  国際金融上の危機は続く、再度混乱する可能性は高い

  しかし金融面での今後の悪影響は少ないとみられる

  すでにルーブル切り下げ・短期国債・株の暴落で十分償却を実施させられたため

  また経済規模が小さいため実体経済面での影響も軽微

 

中南米

 

ブラジル

  国際金融上の危機を回避すべく米国・G7−IMFが動いている

  しかし依然としてIMF融資条件・財政緊縮など難しい問題を積み残している

  万一通貨危機が発生、デフォルトに至れば米国への金融面での影響は甚大

  信用収縮・株価下落など、金融面から米国景気の足を引っ張る可能性が大

  一方実体経済面の影響はアジアほど大きくない

 

メキシコ

  国際金融上の危機が表面化する気配は今のところない

  ただし原油価格の下落で財政収支が大幅に悪化、経常収支も悪化の可能性が大

  このためまず財政緊縮策がとられ景気がさらに減速

  米国に対して金融面よりむしろ実体経済面での悪影響が大きい

 

 

今後も原油・一次産品価格下落が新興国経済に与える悪影響を注視する必要がある

主として中南米が注目地域

米国への金融面・実体経済面での悪影響が懸念材料

株価が大幅調整、再度信用収縮が発生して、全世界的不況に突入するリスクも

ただここではそれをリスクシナリオとして考慮するに止める

 

南米危機の深刻化

 

+――――――――――――――――――――――――――――――+

|                              |

発生                             回避

       ▼                             ▼

米国経済への打撃                      米国経済はソフトランディング

金融市場の混乱                   <メインシナリオ>

      ▼

世界的信用収縮の発生、深刻化

リスク回避による急激な円高の進行

日本のファンダメンタルズも悪化

      ▼

世界的な大不況の発生

 

<リスクシナリオ>

 

 

3 円安トレンドは終了したか

 

95年以降の中期ドル高トレンドは終了したとみえる

 

しかしこのまま中期的なドル下落基調入りする前にドル戻り相場があろう

 

日本にアジア危機勃発時の水準=115円割れ定着を許容できる体力はまだない

しかも貿易量を加味した実質実効レートでは96年初とほぼ同様の円高水準

当時のドル円レートは105円レベルであり、110円台は実質的にかなりの円高

アジア通貨に対して強含んでいるのが主因

今後のドル円相場のイメージ

 

春先まではドル堅調、その後はドル軟調で、概ね行ってこいの展開

グラフ上のドル高支持線に接近、あるいは一時、上抜けることがあっても反落する

日本の景気がさほど回復していなくとも、年央以降は120円割れ推移の可能性が増大

 

 

4 信用収縮・資本停滞・リスク回避による円高のメカニズム

信用収縮

 ファンド筋の調達力が悪化、ポジション整理を招いて大量の円買い戻しを生じた

 

資本の停滞

 投資家がリスク過敏となってリスク資産への投資を回避するようになる

 自国通貨への回帰・cash positionヘの傾斜・質への逃避による国債選好

 

→日本のバブル崩壊後の円高局面との比較が参考になる

 

経常収支面

   景気悪化・内需低迷で輸入減少・輸出ドライブ、経常黒字の増加、円高圧力

  資本収支面

   リスク負担能力の低下で本邦資本の外貨建て資産投資は停止から売り越しへ

 

 

5 足元の円高−110円は行き過ぎ

 

ドル安だが、ユーロ高ではなく、むしろ円高

  昨年8月までは極端なドル高円安「ブーム」(均衡水準からの乖離)

  9月以降の「バースト」(均衡水準への戻り)、崩壊エネルギーは強烈で行き過ぎに

  現在の円高は「均衡からの乖離」という意味で「ブーム」だが「人気」を伴っていない

 

ドルの懸念材料・漠たる不安感が急速に材料視される

  景気減速の深度が不透明

  高値圏にあるとみられる株価調整・ミニバブル崩壊懸念

  中南米リスク ― 世界的信用収縮の再燃

  ユーロの登場で基軸通貨の地位に変化が生じる懸念 ― 外貨準備のシェア変更

  民間資本がドルからユーロにシフトする − とくに本邦投資家の動き

  ドル高政策の変化・保護主義の台頭・日本の当局の円高容認姿勢?

 

しかしこれらドルサイドの要因は主として心理的な材料が多い

実際の資金の流れの面から円高に影響をもたらしているのは本邦投資家の動向

外人投資家 一 日本のファンダメンタルズ改善期待による円高ではない

株・債券など日本への資本流入は見られず

投機的な動き(ドル買、円売ポジションの解消・ドル売、円買ポジションの作成)

 

動けぬ本邦投資家

  日本における「債券バブル」の崩壊 一 長期金利の急上昇

  長期金利上昇に伴う円高で外債の含み益が減少

  金利上昇・円高のダブルパンチで株価が下落

 

→運用資産が総崩れとなるピンチ − リスク許容能力の低下

  90年代初め〜・バブル崩壊後の円高時の状況と似てきた

 

しかしテクニカルにみて円高は行き過ぎ・スピード調整は必至

  過去の値動きからみて、今回のドル円相場の下落ピッチは異常

  そろそろ急速な下落は終了してドル見直し・戻り局面入りする可能性が高い

あるいは万一、なお軟調としてもかなり緩慢なペースとなるはず

 

 

 

6 強いユーロか弱いユーロか

 

ドルマルクは長期にわたりマルク高トレンドとなっている

これは独連銀がインフレ抑制に長けていたためといえる

しかしFRB・グリーンスパン議長の登場でFRBと独連銀の力関係は括抗

あるいは世界的なデイスインフレもあり購買力平価のトレンドは水平になってきた

ECBが物価安定を着実に実現 = 信認を確立すれば中長期的にユーロの価値は安定

ポイント

  マクロ経済政策の動向、財政政策を司る政府と金融当局の折り合い

→独 総選挙で欧州における左派政権の支配が確立

  経済政策は拡張気味になり、金融当局には政治的緩和圧力がかかる

長期的な観点からは

  金融政策の独立性が維持できるか

  財政健全化基準・安定協定が順守可能か

 

これが崩れるとユーロの信認は低下、またEMUがうまく機能するかも依然未知数

  タカ派的な対応ばかりでなく柔軟な金融政策運営ができることも独立性に含む

  ユーロ圏経済の適切な運営が必要、そのため金融政策の責任は極めて重い

  ECBにFRB並みのファインチューニングができるか

短期的な観点からは

 財政金融政策の組み合わせがどうなるか

@ 財政拡張・金融緩和ならポリシーミックスとしては為替相場に中立

   この場合中長期的なユーロへの信認がもっとも低下しやすい組み合わせ

   金融緩和の政策決定がいかに正当性・透明性を保ちつつ行われるか

A 財政拡張に対して金融政策が慎重なスタンスを維持した場合

   組み合わせとしては通貨高圧力

B 財政が中立スタンスを維持できればECBはフリーハンドを得る

   為替は景気動向を反映した金融政策次第

<基軸通貨2極 分化論>

ユーロが基軸通貨として認知されるにはまだ時間がかかる

外貨準備においてドルからユーロへの配分変更が見込まれるがゆっくりとした動きか

<経常収支の均衡圧力>

米国がもはや巨額の経常赤字を維持できなくなるとの見方

ただ現在は財政赤字主導の構造的な経常赤字体質(双子の赤字)ではない

民間部門の貯蓄不足が主因であり、景気純化で米国の赤字は縮小するはず

 

 

7 アジア通貨の動向

 

IMF・G7の支援体制、宮沢構想など国別支援で国際金融面の危機は終息

 

まず外貨流動性不足・資本流出に伴う危機は解消された

今後の通貨危機に対応すべく緊急支援体制を充実・セーフティーネットが整う

 

→ 10/30・G7緊急声明

 IMFに新型融資制度を創設

 IMFの有効性改善のため融資方針・融資条件修正など幅広い改革に着手

 途上国の経済・金融基盤補強に対する公的支援を強化することを目的

 公的セクターにおける主要指標の開示による透明性の向上

 国際的な資本移動に関わる民間金融機関に対する情報開示基準の検討

 

→ 11/18・APEC首脳宣言

 主要先進国は力強い内需主導型の成長を生み出し維持することが必要

 IMFプログラムの柔軟性を評価する

 国際金融機関による保証や新たなメカニズムによる取り組みを実施

 300億ドルの金融支援策(宮沢構想)を歓迎

 

今後は国内経済改革の進捗、それに伴う痛みの克服と経済再建が課題

 

APEC各国の対応は様々で一様には論じられなくなってきた

市場開放・IMF主導で改革を推進   一 韓国・タイ

市場管理・自力での国内改革推進併存 一 中国・香港など

市場閉鎖・国内政策微調整      − マレーシア

IMFの傘下に入りつつも国内事情重視 − インドネシア

 

アジア通貨動向全般の見方

 

<経常収支面>

ファンダメンタルズの悪化は必ずしも通貨安に直結しない

IMFの融資条件など緊縮政策により内需抑制・輸入減少で経常収支は改善

黒字拡大で為替需給面から通貨高圧力が働く

<資本収支面>

一部の国では改革を好感し期待感から海外資本が流入

リスケ・長期債務への乗り換えにより外貨建て債務の短期的返済圧力が軽減

→ 結果的にアジア通貨は安定、ないし通貨によっては強含み推移

今後の焦点は民間債務にいつ返済圧力がかかるか

  金融機関の貸し渋りが強まれば外貨債務返済から通貨安要因に

運転資金減少による返済も今後発生する可能性がある

 

 

8 韓国ウォン・タイバーツの強さは本物か

 

アジア通貨のなかでとくに堅調なのが韓国ウォンとタイバーツ

 

その背景は

1 経常収支の改善 一 不景気の通貨高要因

  所得要因 : IMFの緊縮策・国内景気の鈍化 一 輸入の減少

  価格要因 : 通貨安による競争力の増強 一 輪出増加、通貨安による輸入減少

 

2 外貨準備の積み上がり

  経常黒字を背景として稼いだ外貨が順調に外貨準備として積み上がっている

  その結果、外貨流動性懸念が後退し、投資家に安心感をもたらしている

 

3 海外資本の流入

  景気底打ち・改革期待もあるが安値拾い・持たざるリスクによる海外投資家の買い

 

→ 堅調地合いは続くが、今後は動きの止まっていた民間外貨債務の動向が波乱要因

 

9 人民元と香港ドルの動向

 

人民元・香港ドルともに99年に切り下げられる可能性は少ない

 

中国・人民元

 

国営企業改革・広東国際投資公司にみられる金融整理にともない

政府はデフレインパクトを吸収するため98年・8%成長を目標としてきた

しかしその実現が怪しくなり、99年はさらに鈍化が見込まれる

外需依存を強め人民元を切り下げないか

 

1 朱首相は人民元を切り下げない旨繰り返し表明−いわば国際公約

→ アジアのアンカー役を指向・アジアにおける影響力増強が狙い?

2.経常収支は引き続き黒字、とくに対米黒字は拡大 

3 直接投資を中心とした資本流入は減少の可能性がありながらも続く

→ 自然体でもむしろ人民元高圧力・国内資本の逃避が最大の通貨安要因

4.経常黒字・資本流入を背景とする外貨準備の積み上がり

5 資本取引規制・為替管理が機能している

→投機筋の売りに対抗力を有している

→短期資本の流入がないので資本流出による東南アジア型通貨危機はない

6 経済政策に余地がある一財政支出・公共投資と金融緩和

7.通貨切り下げでも周辺諸国の内需が回復しなければ輸出増加せず

8 仮に切り下げても競合諸国と切り下げ競争に陥るのみ

 

香港ドル

 

香港ドル投機売りにより金利が上昇、資産価格は下落

景気は急速に悪化、マイナス成長に陥り失業者が増加

景気回復のために切り下げ・外需依存の道を選ばないか

 

1 香港経済はサービス中心

→ 切り下げによる輸出競争力向上のメリットはあまりない

→ むしろ不動産価格・賃金の低下によるサービス業の競争力向上が有効

2 不動産・株価調整はもともと不可避

→ 通貨危機・投機筋による株売の仕掛けがなくともバブル崩壊に至ったはず

→ あえて切り下げによる金利低下で資産価格下落に歯止めをかけることはなし

3 通貨当局のペッグ制の防衛姿勢は明確

→ 投機筋の「香港ドル売り・ハンセン(株)売り」戦略に対し株式市場介入で対抗

  投機筋の駆逐に成功、ただし市場重視の姿勢は不変

4 投機筋は一連の混乱による調達力低下で影響力がすでに低下している

5 投機売りが落ち着けば金利は安定・景気底打ち見通しにつながる

 

 

ドル円

 

予想レンジ

第1四半期

第2四半期

第3四半期

第4四半期

USD/JPY

117.00−122.00

115.00−120.00

111.00−116.00

108.00−113.00

EUR/JPY

136.20−142.20

136.25−142.25

136.00−142.00

136.80−142.80

GBP/JPY

195.40−202.40

192.20−199.20

190.30−197.30

184.50−191.50

 

米経済の現状

 

米国98年第3四半期の実質GDP成長率は+3.3%から+3.9%に上方修正され第2四半期の+1.9%を大きく上回る

成長を示した。 成長率の加速はアジア危機による外需減少を旺盛な個人消費が上回ったことに起因するものであり、内需主導の経済成長は第4四半期にも続くものと思われる。 本邦経済指標には景気底打ちの兆しが一部には見られるものの、日米の景況感格差が依然として大きいこと、また先の米中間選挙で民主党が善戦した結果、米大統領が弾劾される可能性が低くなったことも短期的にはドル下支え要因となろう。

 

米金融緩和観測

 

  98年10月の米貯蓄率は▲0.2%と減少傾向を示しており、更に旺盛な個人消費は資産効果によるところが大きいと

見られるだけに米株式市場が調整局面を迎えると個人消費が急速に落ち込むことが予想される。また99年は製造業の在庫調整も本格化する見通しである。 2月に予定されるグリーンスパンFRB議長の議会証言までFF金利は現状の4.75%に据え置かれるであろうが、景気の減速が次第に明らかになるに連れ3月の公開市場委員会(FOMC)ではFF金利を0.25%引下げ、更に99年中に0.5%の追加利下げを行うと予想されドルの上値は限定的となろう。

 

米経常収支悪化

 

 98年1月から9月の米国際収支を見ると、季節調整済の財・サービス収支は、前年実績の▲818億ドルを大きく上回り、GDPの1.9%に相当する▲1,231億ドルに膨れ上がっている。 この間、輸出は1.0%減少する一方、輸入は5.1%

増加している。 最近、米政権の中では外需後退の影響を受け国内景気が減速するとの見方が広がっており、再び経常赤字の拡大が問題視され始めている。 日米貿易不均衡是正に向け日本政府から妥協を引き出す手段としてドル円相場が利用される可能性は否定できない。 ドル円相場と12四半期遅行させた米経常収支との間には1980年以来54%の相関性が見出せることからも、米経常収支の悪化が99年のドル円相場に対する懸念材料となる可能性が高い。

 

景気回復期待

 

 既に実施されている日銀の金融緩和政策と金融改革関連法案との相乗効果で、今回の緊急対策が日本経済を99年以降

安定した回復基調に導くものと思われる。 政府の経済対策への期待を背景に日経平均株価が安定的に1万5000円台を

回復すれば冷え込んでいる企業の設備投資や景況感が改善するきっかけとなり、ひいては個人消費意欲の改善につながる

ことが期待できる。 本邦の家計貯蓄率は既に可処分所得の14%に上っており、景況感が改善してくると今までの買い

控えの反動から消費の急増が予想される。 政府は緊急経済対策が99年度の実質GDP成長率を3%程度押し上げる効果

があると試算しているが、それ以上の効果をもたらす可能性もある。

 

円堅調

 

 以上の要因から今後円は対ドルで堅調推移し、年末には110円程度の水準を予想する。但し、日本の当局は輸出産業

の競争力低下につながる100円割れは阻止する動きに出ると見られるため、100円を大きく超える水準への円高進行の

可能性は低いと思われる。

 

 

 

ユーロ

 

予想レンジ

第1四半期

第2四半期

第3四半期

第4四半期

EUR/USD

1.1400−1.1900

1.1600−1.2100

1.2000−1.2500

1.2400−1.2900

EUR/JPY

136.20−142.20

136.25−142.25

136.00−142.00

136.80−142.80

EUR/GBP

0.6940−0.7140

0.7000−0.7200

0.7110−0.7310

0.7300−0.7500

 

金利収斂

 

独連銀は98年12月3日レポ金利を3.3%から95年の8月以来の史上最低水準である3.0%に引き下げた。 同時にフランス、オランダ、ベルギー、オーストリア、スペイン、ポルトガル、アイルランド、フィンランドといったユーロ圏の中央銀行も同日付けで政策金利を3.0%に引き下げる協調利下げを実施し、イタリア中銀は公定歩合を3.5%に引き下げた。これで12月22日のECB理事会で正式決定されるユーロの政策金利は3.0%になることがほぼ確定的となった。

             

ユーロ圏経済の現状

 

  98年12月1日に欧州中央銀行(ECB)は99年のユーロ圏の実質GDP成長率の見通しを+3.0%から+2.5%に下方修正し、更にこの見通しを下回る懸念があることを明らかにした。 独の消費者物価指数はこのところ+1%以内と落ち着いており、またユーロ圏内においてもインフレ懸念が見られないことから、利下げ余地が出てきたものである。 独連銀のティートマイヤー総裁は協調利下げが独仏伊の左派政権からの利下げ圧力を受けての決定ではないこと、また今回の利下げによりユーロ圏内の経済成長が「当分の間」保証されると述べ、追加利下げの可能性には否定的な見解を示している。

 

財政規律

 

  チャンピ伊国蔵相がEMU安定協定の柔軟解釈により政府予算からインフラ整備関連の投資分を控除できるとの見解を示したことからユーロ圏内の財政規律が緩むのではないかとの憶測が強まっている。 しかし、ドイセンベルクECB総裁は安定協定の解釈見直しはユーロの信頼性を脅かすものになると懸念を表明しており、財政規律遵守に関する懸念からもECBは早期追加利下げに対し慎重になるであろう。

 

ECB政策目標

 

  ECBは、ユーロ圏のインフレ率の目標を消費者物価上昇率の年率べ一スで+2.0%、インフレ圧力を測定する手段としてマネーサプライ伸び率+4.5%の基準値を設定した(経済成長率+2.0〜2.5%を基準に算出)。 しかしドイセンベルクECB総裁はいずれの目標値にも固執しないとの姿勢を明らかにし、更に金融政策決定にあたって失業率などのさまざまな経済指標も参考にするという柔軟な基本姿勢を示していることから、ユーロ圏の経済成長率が予想以上に鈍化した場合にはECBは利下げを実施することも考えられる。 99年の第2四半期にレポ金利を引き下げたとしてもその幅は小幅(▲0.25%引下げ2.75%)なものに留まる可能性が高いと思われる。

 

ユーロ堅調

 

  ECBのユーロ金利の引下げ幅は米ドル金利の下げ幅に比べ小幅に留まり、米国とユーロ圏の金利差は更に縮小すると

予想されることから、ECBの景気の舵取りや信用秩序の維持能力に対して市場が相応の評価を与えれば、ユーロは対ドルで堅調推移するであろう。 99年末のユーロvsドルの予想は1.2710でドルマルクの1.5500に相当する。 但し、ユーロ圏内の財政規律が遵守されるかどうか懸念が残るため、この水準以下にドルが急落する可能性は低いであろう。

 

 

 

 

英国ポンド

 

予想レンジ

第1四半期

第2四半期

第3四半期

第4四半期

GBP/USD

1.6500−1.6800

1.6600−1.6900

1.6800−1.7100

1.6900−1.7200

GBP/DEM

2.7300−2.8500

2.7000−2.8200

2.6600−2.7800

2.5900−2.7100

GBP/JPY

195.40−202.40

192.20−199.20

190.30−197.30

184.50−191.50

 

英経済成長鈍化

 

98年10月の小売売上高は前月比▲0.4%と2ケ月連続で減少し、前年同月比の増加率もわずか+1.0%と96年1月

以来の低水準を示すなど個人消費に陰りが見え始めている. 消費意欲の減退やポンド高を背景とした製造業の不振は、英産業連盟(CBI)の景況感調査で11月の受注動向指数が▲47と2ヶ月連続で92年以来の低水準を記録したことからも明らかである。 個人消費の悪化と製造業の不振を受け、大蔵省と英中銀(BOE)は99年の実質GDP成長率見通しをそれぞれ1.25%と1.00%に下方修正した。 98年9月の貿易赤字が25億ポンドという過去最大の赤字残を計上した背景には輸出の落ち込み(3.2%減少)が見られ、製造業の生産調整が今後本格化する懸念が強まっていることから、実際には予想以上に景気減速が進むリスクがある。

 

金融緩和

 

経済成長の鈍化に伴い、英中銀の金融政策委員会(MPC)は98年10月以降レポ金利を既に計1.25%引き下げ、6.25%

としている。 BOEは四半期毎に発表するインフレ動向報告の中で2年後に実質インフレ率が目標値である+2.5%以内に収まるという見通しを示した。 これはインフレ懸念の後退を背景とした追加利下げ余地を示すものであり、MPCは99年も金融緩和スタンスを継続し、6月までにレポ金利を6.00%程度の水準まで引き下げるであろう。

 

英ポンド軟調

 

英国金利の先安感を背景として99年のポンドは対ユーロで軟調推移を予想する。 98年からのドルマルク相場とポンドマルク相場は非常に高い相関性(92%)を示しているが、99年の米ドルは対ユーロ(マルク)で軟調推移を予想しており、同様にポンドも対ユーロで軟調に推移すると考える。 99年末のユーロポンド相場の予想値は0.7425であり、これはポンドマルク相場の2.6500に相当する。 但しポンドは先進国随一の高金利通貨であり投資対象としての魅力は依然残り、対ドルでは底固く推移するであろう。

 

 

シンガポールドル

 

予想レンジ

年前半

年後半

対ドル

1.6000−1.7000

1.6000−1.7000

対 円

69.40−74.70

86.20−71.80

 

市場の需給

 

  アジア株に対する「持たざるリスク」の高まりに、欧米資本筋を中心にこれまでunder weightに放置していた同国株式を買い戻す動きが認められる。 しかし、経済ファンダメンタルズの回復を伴わない株高の継続には疑問も多く、今後は海外からのポートフオリオ投資によるシンガポールドル高は期待しづらい。 しかし、経常需給については、99年も輸出が伸び悩む一方、輸入の減少により前年並みの経常黒字が維持されることが予想されるなど、需給面からのシンガポール

ドルの下値不安は乏しい。

 

MASの為替政策

 

  政策的には、政府は輸出振興目的の通貨安政策の採用は否定するが、家電など周辺国との競合品を中心に価格要因に

よる輸出減も指摘されている。 低下基調にあるとは言え依然としてGDPの約25%を製造業に依存し、GDPの2.5倍の貿易量を有する同国において、従来の自国通貨高政策は既に機能しなくなっており、ここ数年のシンガポール通貨庁(MAS)の為替政策についても通貨安を志向する動きさえ認められる。 但し、今般の競争力強化策に加え、物価上昇を伴う通貨安は個人消費にダブルパンチを与えかねない。 過去のシンガポールの政策が、「飴と鞭」的なポリシーミックスを採用して

きたことに鑑みると、急激なシンガポールドル安政策を採用する可能性も小さいだろう。

 

強まるドルリンク   

 

以上から99年のシンガポールドル相場は、需給と政策の綱引きの中、金融不安の再燃、インドネシア間遁に若干の

下値リスクを残しながらも、基本シナリオとしては、現状のレンジを中心に安定推移を辿るものと思われる。

 

 

香港ドル

 

予想レンジ

年前半

年後半

対ドル

7.700−7.760

7.700−7.770

対 円

14.80−15.90

13.90−15.10

 

市場の需給

 

98年の香港株価は投機筋の執拗なアタックによる8月のハンセン指数7000台割れの水準から、その後当局の大規模な株価維持介入、それに続くペッグ制強化策により立ち直り、更に米国を始めとする世界的な金触緩和から10000台を

回復した。 ここにきて投機筋の活動の減退等、外部環境も好転していることに鑑みれば、需給的には香港ドルは当面底

堅く推移しよう。 但し、景気不振がもたらす失業増や資産デフレが深刻化し、実体経済の実力との乖離が進めば、再び

ペッグ制の矛盾を突く形での投機的売りが出てこよう。

 

ペッグ制堅持

 

政策面では、香港当局は99年4月1日以降、現行の香港ドル買い為替保証レート1米ドル=7.75香港ドルを、ペッグ制下の香港ドル紙幣交換レート7.8香港ドルに合わせるべく段階的に変更することを決めたが、当局がドルペツゲ制を維持する限り、他アジア緒国通貨との相対的な割高感は否めない。 但し、幸いにして香港の金触システムは当局に

よる厳格な管理もあり、金融機関による不良債権の発生も最小限に留まっている。 潤沢な外貨準備や当局のCurrency Board Systemに対するコミットメントを考えれば、当面かかる制度の放棄を行う可能性は少ないものと考える。

 

 

 

タイバーツ

 

予想レンジ

年前半

年後半

対ドル

33.00−40.00

35.00−43.00

対円

2.950−3.600

2.600−3.250

 

市場の需給

 

国際機関等からの資金支援、地場企業買収資金流入及び在タイ外資系企業の増資等の動きに、バーツは安値から大きく値を戻している。 また、最近では海外勢による証券投資の活発化がバーツ相場の大きなサポートになっている。 IMFとの協調体制の下、早期に構造改革を進めたこと、チュアン現政権に対する国内外の信任を背景に、外資流入の動きが継続。

貿易黒字とあいまって、バーツ需給はタイトに推移するものと思われる。

 

タイ中銀の為替政策

 

こうした需給要因に加え、政策的にも中銀はバーツ高容認の姿勢を崩していない。 同国輸出の価格弾性値が低下する中、輸出振興の通貨安政策よりも、現状は通貨高による国内企業の債務負担の軽減、物価安定及び金利低下を通じた株価

上昇が政策的にも重要になっていることが見て取れる。 しかしながら、国内輸出企業の採算レートが35〜40と言われる現状、このレベルを大きく上回るようであれば、中銀もバーツ高に対して警戒感を示してこよう。

 

外貨債務返済の動き

 

更に年央以降については、後向きの資金需要に対する外資流入が一服する一方で、マクロ経漬調整の過程でバーツ金利が一段と低下、潜在的なバーツ売り需要である対外債務返済の動きが強まる可能性がある。 年後半については円その他

アジア通貨の動向にもよるものの、基本シナリオとしてはこうした動きが経常需給におけるバーツ買いの動きを飲み込み、バーツはじり安推移を辿るものと予想する。

 

 

 

 

韓国ウォン

 

予想レンジ

年前半

年後半

対ドル

1150−1500

1100−1450

対 円

8.20−10.30

7.70−10.00

 

経済の動向

 

構造改革の継続により、国内景気は当面低迷を辿ることとなろう。 日本の景気が依然不冴えな状況にあることや、

米景気にもかげりが見えていることから、外需主導での景気回復を図ることも難しい。 一方で輸入については内需不振

から低水準に留まることから、経常収支面では黒字基調が続くものと思われ、需給面から見たウォン相場は少なくとも

99年前半までは大きな変化なく、安定推移しよう。 ただし、国内産業のリストラが想像以上に大胆に行われた場合には、対外借入債務の返済が前倒しで行われ、外資流入のペースが落ち込めばウォン安要因になりうることも考えられる。

 

為替政策

 

  為替相場は基本的に円相場の動向に影響されることから、円高局面ではウォンが更に強含む場面もあろう。 しかし、同国の経済構造は基本的に外需依存型であり、中銀は輸出競争力確保の観点から、これまで通り過度のウォン高には介入で対抗する可能性が高く、ウォンの上値は限定的なものとなろう。

 

 

 

 

インドネシアルピア

 

予想レンジ

年前半

年後半

対ドル

8800−9000

6000−9000

対 円

1.300−1.790

1.200−1.930

 

政治不安と為替需給

 

国際機関からの支援資金流入に加え、経済活動の再開に伴う外資系企業の増資等の動きに、ルピア需給は当面小じっかり維移するものと思われる。 不安定な政治・社会情勢に加え、進展を見せない民間債務リスケ交渉に鑑みると、外資の

新規進出は考えにくいものの、逆に債務返済のためのドル買いの動きも当面限定的なものに留まることが予想される。

また、欧米系の仕手筋などもアジア通貨の流動性リスク、規制リスクなどに鑑み、投機的な取引を手控える傾向を強めて

おり、薄商いが続く為替市場で、中銀が断続的にルピア買い介入を行う限り、ルピアの下値不安は乏しい。 しかし、一方で経常・資本需給の動きだけでは単なるルピア高をもたらすには力不足と言わざるを得ない。 政策的にも、⊥部中銀筋

から更なるルピア高を容認する動きもあるが、これは必ずしも政策当局総意とは考えられず、当面は1ドル=7000ルピアが政策面からの抵抗線になるのではないだろうか。

 

上下に孕むリスク

 

  以上を総合すると、99年5月に予定される総選挙までは、現レベルを中心とする動き。 その後、年末の大統領選に

向け新政権の輪郭が見え、社会不安が払拭されれば、現状のタイや韓国同様の外資流入の動きが強まり、ルピアはじり高に推移するものと思われる。 但し、総選挙にかけ暴動等社会不安の高まりに、国際機関等からの資金流入が滞る事態が

もたらされ、再度1ドル=10000ルピアを割り込むリスクシナリオについても、若干の可能性を残しておかねばなるまい。

 

 

台湾ドル

 

予想レンジ

年前半

年後半

対ドル

31.00−34.00

30.00−33.00

対 円

3.400−4.000

3.250−3.900

 

市場の需給

 

日本を始めとするアジア圏諸国の殆どが経済不振にあり、且つ欧米景気の減速から、当面外需の伸びを期待することは難しく、貿易黒字は98年と比べ更に縮小することとなろう。 又、最近発生している一部企業や金融機関の信用不安に

より、これまで他アジア諸国に比べ相対的に安定していた台湾経済に不透明要因が増加したことから、これが沈静化する

まで海外からの投資による資金流入は期待しづらい環境にある。 このように需給面では台湾ドル貫い要因に乏しい。

 

下値は限定的

 

  政策面では、中銀が一旦は台湾ドル防衝から台湾ドル安容認へ姿勢を変更したかに見えたが、最近の信用収縮の動きに再び警戒感を強め、通貨防衛、金融システム安定に強い決意で臨んでいる。 今後の円相場の動向や、貿易上の競合相手である韓国の通貨動向に若干左右されるものの、中銀は当面台湾ドル安定維持方針を継続する公算が高く、下値も限定的な

ものになろう。

 

 

 

 

中国元

 

予想レンジ

年前半

年後半

対ドル

8.260−8.300

8.270−8.310

対 円

13.80−14.80

13.00−14.00

 

元安圧力

 

需給面では、外貨規制強化策実施以降、横這い傾向にあった外貨準備高は増加基調に転じ、元売り圧力が減退、目先は堅調に推移しよう。 他方、他アジア諸国と比べ割高な為替水準から、元の国際競争力は既に低下しており、輸出の更なる鈍化は避けられない。 内需については政府の景気浮揚策により回復しようが、これに伴なう輸入のリバウンドも考えられ、徐々に元安方向にバイアスがかかる可能性が高い。

 

相場政策

 

  政策面では、当局は引き続き外貨管理を強化し、人民元相場の安定維持に注力する方針である。 注目の人民元の切下げの可能性については、同国の経常収支が著しく悪化するような事態になれば、政策的に中国元安を容認する動きも出てこようが、かかる動きは依然として不透明要因を残す新興国市場を中心に再び通貨の切下げ競争を引き起こしかねないことから、中国当局がかかる選択を行う余地は限定されよう。

 

USD/CNY (US Dollar/Chinese Yuan)

 

 

円金利

 

予想レンジ

年前半

年後半

短期金利予想

(CD3ヶ月物)

0.40%−0.60%

0.40%−0.60%

長期金利予想

(10年物国債指標銘柄利回り)

0.90%−1.50%

1.20%−1.90%

 

本邦経済の低迷

 

  99年前半の実体経済は、国内物価の下落や生産・在庫調整の持続、設備・屠用面でのリストラなどにより、引き続き厳しい状況が続こう。 24兆円規模の緊急経済対策によりデフレ・スパイラルの加速は回避されようが、これに伴う景気浮揚効果は限定的との見方が支配的であり不況感は拭えず悲観的な見方が残ろう。

 

景気底入れの兆し

 

  後半にかけては、ストック・雇用調整等の一巡、99年度補正予算(追加経済対策)の実施を受け漸く景気底入れの

気配が見え始めよう。 但し、構造改革やバランスシート調整に伴うデフレ圧力は残存するため、景気回復力は弱いもの

となろう。

 

短期金利低位安定

 

かかる状況下、実体経済の回復が見極められるまでは日銀による政策金利の引き上げは考え難く、現状の超低金利政策は維持される見通しである。 短期金利については、足元金利は0.25%前後で推移し、ターム物については期末の資金

需給要因等から一時的に強含む場面もあろうが、概ね低位安定推移すると予想する。

 

長期金利上昇圧力

 

  一方長期金利については、98年度補正予算に伴う国債の市中消化額の増額や99年度当初予算案での20数兆円規模の新規国債発行など、2月以降も過去最高水準の国債発行が続く見通しであり、特に年前半は国債需給懸念から上昇圧力が

かかり易い展開が続こう。 その後年後半にかけても、景気底入れ感の台頭や企業業績の回復期待から株価も緩やかな回復基調に入ることが予想され、長期金利は徐々にレンジを切り上げる展開を予想する。 但し、バランスシート調整や物価

下落圧力の継続から金融政策の変更はなく、短期金利低位安定から長期金利の上昇は抑制されよう。

 

 

米ドル金利

 

予想レンジ

年前半

年後半

短期金利予想

(ユーロドル金利3ヶ月物)

4.20%−5.20%

4.00%−4.50%

長期金利予想

(30年物国債利回り)

4.75%−5.25%

4.75%−5.25%

 

米国経済の現状

 

 米国経済は、98年の第3四半期実質GDP成長率が3.9%を記録、通年でも3%に達する見込みであるが、その拡大

ペースは次第に鈍化しつつある。 連銀は、世界的な経済、金融混乱や米国内の信用市場の不安定化による実体経済への

悪影響を食い止めるべく、9月のFOMCにおいて25BPの利下げに踏み切った。 その後10月、11月に追加利下げを

実施した結果、F F金利は4.75%へと低下した。 こうした連銀による異例とも言える対処により、信用収縮懸念は完全

には払拭されてはいないものの、金融市場は総じて落ち着きを取り戻しつつあり、連銀による危機対応的な金融緩和は

一旦終了したとの見方が広がっている。

 

景気減速

 

  99年については、米国景気の後退は回避するものと見られるが、年前半より減速傾向を強め、99年の実質GDP成長率は2%程度に留まるものと予想する。 個人消費は今の処堅調であるが、貯蓄率がマイナスを記録するなど歴史的な低水準で推移するなか、企業収益の悪化が明確化しており、これが雇用や所得への悪影響を通じ個人消費の鈍化へと繋がる可能性は高い。 また生産面においては世界的な景気低迷による需要減退から引き続き輸出が不振であり、設備稼働率も低下を

続けている。 そうした中、設備投資についても、一部情報関連投資は底固く下支え効果がある程度見込まれるものの、

減速を余儀なくされよう。 物価は、賃金の上昇率鈍化、原油、商品価格の低迷、安価な輸入製品の流入や企業の価格支配力低下を背景に、引き続き安定基調を維持しよう。

 

金融緩和

 

  かかる状況下、連銀は景気減速に対処する形で99年第1四半期より段階的に利下げを実施し、年末迄にFF金利は

4.00%程度へと低下する公算が大きいと見る。 中南米を始めとした新興市場を中心に世界経済が混乱へと向かうリスクも依然残っており、安全資産としての米債選好は引き続き根強いことに加え、金融緩和局面が続くものと予想することから、市場金利は低下トレンドを辿ろう。