磁気テープの話(3)

録音テープの機械的性質としては温度や湿度の影響が少なく、録音機にかけたとき、切れたりすることなく常に柔軟で経時的変化のないことが望ましい。

強さの判定はテープに荷重をかけたときの伸び、切断させるに要する荷重、荷重を取り去ってもなお残っている永久伸び、および衝撃力を加えたときの切れの難易による。したがって、弾性限界強度が大きく、永久伸びの少ないテープが良い。

テープはカール、片伸び(テープのエッジが肉眼でも見えるビロビロになること)などの変形をしないことが重要で、これは録音、再生時に大きなレベル変動の原因となる。

磁性膜はベースフィルムからはがれないことが大切であり、何度か録音、再生、消去を繰り返しても、特性に大きな変化がないためには、塗膜の耐摩耗性もよくなければならない。

テープの表面はきわめて平滑なことが必要で、平滑度が悪いと周波数特性の劣化、音とび、雑音発生の原因となる。

テープは柔軟であればあるほど周波数特性が良くなり、また高い周波数のレベル変動が少ない。

テープが巻かれた状態で、その層間が粘着しないことが望ましい。高温多湿の条件で粘着が激しくなるものもあるが、粘着が激しいとテープの走行が異常をなり、回転ムラ(ワウ・フラッター)を起こす原因となる。特に夏場の車内のダッシュボード上への放置は問題である。

ベースに誘電率の比較的大きいプラスチックフィルムを使用しているため、走行中の摩擦により、大なり小なり帯電するものであるが、あまり帯電が大きいとゴミの付着が多くなり、雑音発生の原因となる。




〔1〕
感度と周波数

音の強弱は物理的には振動振幅の大小であり、大きな振幅の音は耳に強い刺激を与え大きな音として感じる。録音テープの感度とは同じ入力の信号を録音、再生した時、その信号出力が大きいこと。すなわち大きな振幅の音が再生できることを感度が良いという。

また、音の振動数の違いを音の高低というが、物理的には周波数といって、周波数の多い音を高い音、周波数の少ない音を低い音という。低音から高音(50〜10,000ヘルツ)まで忠実に録音され、規定の再生出力が得られるテープを周波数特性が良いという。

この感度と周波数の関係を詳しく述べると次のようになる。録音ヘッドの入力電流を一定にして録音し、再生したとき、再生ヘッドの出力電圧は原理的には、1オクターブ当たり6dBで周波数に比例して上昇するはずであるが、実際には各損失が録音ヘッドから再生ヘッドまでに生じる。したがって実際のレスポンスは周波数が高くなるにつれ、劣化し、山形になる。

山形の周波数特性を総合的にフラットな特性とするためには、録音と再生を通じて大幅な周波数補償が必要である。これを等化または補償といい、この回路をイコライザーという。補償はSN比、ひずみなどを考慮して、主として録音のときには高域を、再生のときには低域が行われる。

その補償の量はテープ速さ、テープとヘッドの構造、性能、テープとヘッドとの密着性など、テープレコーダーによって異なるため、互換性の必要から、各テープ速さにおける再生補償が規格できめられている。その規格を基に再生イコライザーが調整され、再生系と組み合わされてフラットな録音、再生総合周波数特性が得られるような録音イコライザーが作られる。

周波数が高くなり、その波長が磁性膜厚ぐらいになってくると、厚み損失が生じてくる。例えば、磁性膜厚10ミクロン、テープ速度9.5p/sで10kHZの信号では厚み損失は16dBとなる。実際の磁性膜厚63ミクロン、125ミクロン、25ミクロンのテープの出力を比較してみ ると、周波数200HZの低いところでは膜厚の厚いものが出力は大きいが、10kHZといった高い周波数になると厚み損失があるため、薄い膜厚のテープ出力が大となってくる。各損失のうちでこの厚み損失の影響が最も大きいといわれている。

磁性膜表面の凹凸あるいはテープ、ヘッド間にゴミ異物が付着した時に、テープ、ヘッドの間隔があくことによる損失をスペース損失という。周波数が高くなり、波長λが短くなればなるほど、スペースdが大となればなるほど、スペース損失が大となる。例えば、テープ速度95cm/s10kHZのとき、1ミクロンのゴミをかんでテープがヘッドから浮いたとすると、約5dBのスペース損失となる。

ヘッドのギャップgが記録波長λと大体等しいくらいになると、その信号は出力0となり再生しなくなる。したがって高い周波数を忠実に再生するためには、ギャップgができるだけ小でなければならない。とくにカセットレコーダーのように4..75cm/sの低速で、しかも高域をだしたい要求がある場はg=2ミクロン位のヘッドを用いる。

〔2〕動作バイアス

録音感度を上げるためと歪みを少なくするために、テープにバイアスをかけるのが一般的であるが、1000ヘルツの信号を録音しながらバイアス磁界を変化させて0バイアス時より段々深くかけていくと、再生出力が増加すると共に、歪みも減少してくる。さらに深くすると、最高出力点に達し、その後低下する。動作バイアスはその最高出力が得られる点をいう。

〔3〕歪み

歪みは聴感上、音のつまりや濁りに関係し、テープレコーダーのアンプ、ヘッド、テープなどの非直線性のために生じる高調波歪みや変調歪みの他に、テープ走行系に起因する変調歪みがある。

高調波歪みはテープレコーダーの場合、録音入力と再生出力間の非直線性のために発生するひずみで周波数帯域あるいは周波数特性と歪みの関係は深く、歪みが音質に与える影響は非常に大きい。

テープレコーダーはアンプ自身の歪みが少ないものとすれば、録音時による歪みが主で、その程度はテープとその使用条件に関係し、バイアスと録音レベルの設定が重要である。普通平均レベル付近では1%以下、最大レベル付近では5%位になっているが、録音時に行う高域補償が必要以上に大きいと高域でのダイナミックレンジが狭くなり、そのため歪みも増加する。

〔4〕雑音

雑音は、漏話と共にHi-Fi再生を妨げる余分の音であり、とくにステレオ録音にみられるトラック幅の減少、プリント回数の増加によるSN比の低下がある。テープレコーダーの雑音はアンプ自身のもの、モーター、電源トランスなどからヘッドその他への誘導ハムの他に、テープ自身あるいは録音によって生じるものがある。

録音信号の有無に関係なく、常に再生出力に現れる雑音であって、次のようなものがある。

a.アンプ雑音:トランジスター雑音、異常発振、マイクロフォニック、ハム

b.ヘッドおよびリード線で拾う誘導雑音

c.クリック:スイッチの切り替え時に生じる雑音

d.テープ雑音:完全に消磁された状態であらわれる。テープ磁性体の磁気的不均一、または塗布むら、消去不完全、直流バイアスによる磁化、交流バイアスの場合の波形非対称、磁気ヘッドの直流帯磁、磁性膜上の凹凸、空孔等があれば雑音が増加する。

録音信号があるときに現れる雑音であって、振幅変調性のものと、周波数変調のものの他に、録音信号とバイアスとの間に生ずるビート波などがある。

[]漏話

一般には混信のことを言っていて、クロストークともいう。隣接のトラックまたはチャンネルからの漏れで、原因はヘッド内の隣接コイル間のもれ、アンプ内のもれ、絶辺効果(磁気ヘッドのギャップ部におけるトラック幅外に漏れる磁界によって生じる効果)によるヘッド表面におけるもれ等がある。

[]転写

録音したテープをリールに巻いて長時間保存すると、重なり合ったテープの他の部分に録音信号が磁気的に転写される。これは、録音されている信号の作る微小磁界が重なり合ったテープの他の部分を磁化するためで、その結果エコーとなって現れることがある。転写量の大きさは磁性材料の種類、録音されている信号の大きさや波長によって異なるが、さらに外部磁界が加わったとき、周囲温度が高い時などに起こりやすく、テープが薄いほどその量は大きくなる。

[] ダイナミックレンジ

最大出力と雑音で制限される音量の変化範囲のことをダイナミックレンジという。ダイナミックレンジは音楽の場合で普通70〜80dB、会話の場合で40dB程度といわれ、この場合最大音圧レベルと室内騒音レベルの差をdBであらわした値をいっている。

テープレコーダーの場合は、テープの磁気飽和が上限となり、下限はテープの雑音となる。ダイナミックレンジは周波数によって最大出力レベルと雑音レベルは異なるので、当然ダイナミックレンジは周波数特性がある。テープ幅6mm19cm/sのテープ速さで2トラックの場合では60〜65dBであり、音楽のダイナミックレンジに比べテープレコーダーの特性は不足しているので、ミキシングによってピークレベルを押さえたりして、広げる方法が取られている。

録音された信号を正常消去したときに残る信号と未消去部の信号の大きさの比を消去、または消去率という。

 

以上で録音の概要についての説明は終了します。次回以降は製品紹介やFD、光デイスクの話も考えています。